[台湾歴史]台湾と中華民国の関係と違いを解説〜台湾で売っている中華民国の地図を読み解く
僕は台湾に移住したので、よく台湾について調べています。
ところが「台湾」と「中華民国」の違い、というややこしい問題があります。
なので今回一通り調べたので、誰にでもわかるように、簡単にまとめてみました。
この記事を読めば「台湾」「中華民国」「中華人民共和国」のなんとなく知った気でいたことが理解できるはずです。
目次
台湾は地域名であり国名ではない、中華民国が台湾にいる
まず、台湾について軽く触れておきます。
「台湾」とは一般的に沖縄の西に位置する、台湾島と周辺諸島の「地域名」です。
「えっ、台湾って国名じゃないの?」
という疑問もあると思いますので後述します。
ちなみに日本政府の公式見解でも「国名」ではなく「地域名」です。
たとえば先日開催されたリオオリンピックでは「206の国と地域から参加」でしたが、台湾は「国」側ではなく「地域」側の数に含まれます。
中華民国とは
次に「中華民国」についてです。
中華民国は1912年に孫文を臨時大統領として成立した中国大陸を治めた国です。
一番大きな政治権力は「中国国民党」が握っていました。
また、1912年までは中国大陸は清国(清朝)が治めていました。
第二次世界大戦後、中国共産党と国共内戦を経て、中国史では1949年に滅亡した国となっています。
中華人民共和国とは
そして「中華人民共和国」についてです。
中華人民共和国は1949年に毛沢東を最高指導者として成立した、現在も中国大陸を治めている国です。
台湾とは
最後に「台湾」についてです。
一般的に「台湾」とは台湾島とその周辺の島のことです。
その「台湾」は1945年の第二次世界大戦の日本敗戦まで日本の領土でした。
しかし敗戦により日本は台湾の領有を放棄しました。(サンフランシスコ講和条約)
また、終戦時にはマッカーサー指令により台湾の部隊は中華民国「中国国民党」の蒋介石に降伏することになりました。
(イ)支那(満洲ヲ除ク)、台湾及北緯十六度以北ノ仏領印度支那ニ在ル日本国ノ先任指揮官並ニ一切ノ陸上、海上、航空及補助部隊ハ蔣介石総帥ニ降伏スベシ
その後、中華民国内での中国国民党と中国共産党の内戦が起こりました。
劣勢の中国国民党はだんだんと中国の領土を中国共産党に奪われ、結果的に台湾に立てこもりました。
中華民国の国民党としては、拠点を台湾に一時的に移し、立てこもっただけつもりが、そのまま70年以上もたってしまいました。
それが現在の「台湾」の状態です。
なので、台湾という地域を治める現在の国は中華民国というわけです。
さらに、中国国民党は現存しており、2020年現在、台湾の最大野党です。
また、国共内戦で勝利した中国共産党は前述の中華人民共和国を中国大陸で成立させます。
台湾人のパスポート
したがって、いわゆる「台湾人」の皆さんが所持しているパスポートは「中華民国」のものです。
英語名もRepublic of Chinaです。
ただし、2003年から「TAIWAN」と併記されるようになりました。
「台湾民主国」とは?
ついでに説明すると、1895年の下関条約で清国から日本に割譲が決まった後、台湾は独立宣言をします。
それが台湾民主国です。
しかし実際は国家の体をなしておらず、日本軍により数ヶ月で消滅しました。
これから50年間、台湾は日本国の一部になりました。
台湾と中華人民共和国の関係
国共内戦の経緯から、中華人民共和国側から見ると、中華民国(台湾)は内戦での滅ぼし残しでしかありません。
中華人民共和国は台湾も中華人民共和国の領土だと主張しており、中華民国の存在を認めていません。
なので、台湾人は中華人民共和国へ渡航する際にはパスポートを使用できません。
台湾(中華民国)側も(一応は)中国大陸をいつかは取り返すつもりでしたが、1991年にようやく公式に諦めました。
台湾と中華民国の違い
つまり「台湾」という言葉には、
・「台湾島」
・「台湾島」に住む「中華民国」
と、いう二つの意味があります。
しかしながら現代では台湾(TAIWAN)を便宜的に国名として使用することが多いです。
多いと言うか、ほとんどこれです。
そもそも外国人にとって、あまり馴染みがあるものでもないですから。
したがって、台湾を呼称する時には地域名としてなのか国名としてなのか、区別する必要があります。
曖昧にしたままでは、時々大きな誤解が生まれてしまいます。
例えばこのページ最上部の国旗、あれは「台湾の国旗」ではありません。
みんなが台湾の国旗だと認識しているあれは「中華民国の国旗」です。
これに加えて、台湾の国歌も台湾の憲法も存在しません。
それぞれ中華民国の国歌と憲法です。
だから「(人種としてではなく、国民として)我々は中国人ではない、台湾人である」というアイデンティティの方々は「我々には国旗も国歌も憲法もない」状態です。
ただし「便宜的に」台湾=中華民国とした場合、これは「台湾の国旗」となるわけです。
難しいですね。
台湾に関する日本政府の立場
日本は1972年まで中華民国(台湾)と国交を結んでいました。
それは中国大陸を代表する国は中華民国だとしていたからです。
しかしながら様々な事由から中華民国とは断交し、中華人民共和国と国交を結びます。
日本の台湾における立場は以下の通りです。
中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。
よく台湾独立派の台湾人から「日本は中華民国(台湾)を国として認めていない!」と文句を言われますが、これは違うと僕は考えています。
なぜなら日本は決して中華人民共和国政府の主張を支持するとは言っておらず(「理解し、尊重し」ているだけ)、中華民国(台湾)への最大限の配慮を表しているからです。
中華人民共和国を支持していないのはつまり、中華民国(台湾)を認めているからに他ならないです。
中華民国を本当に認めていないなら、中華人民共和国を支持すると表明するはずだからです(実際は「理解し、尊重し」ているだけ)。
外務省のよくある質問集でも、このように政府の公式見解が述べられています。
台湾との関係に関する日本の基本的立場は、日中共同声明にあるとおりであり、台湾との関係について非政府間の実務関係として維持してきています。政府としては、台湾をめぐる問題が両岸の当事者間の直接の話し合いを通じて平和的に解決されることを希望しています。
有り体に表現すると「中国の言ってることはわかりました。でも中国と台湾の関係はお互いに解決してください。日本は台湾と断交しても仲良くやって行きますよ。」という内容です。
外国人登録証や住民票も台湾は中国と記載される時期が長く続きました。
台湾人から「おかしい!」と抗議されることが多くありましたが、「中華人民共和国」ではなく「中国」と表記するところに日本の苦悩がにじみ出ています。
「中華民国」も省略すれば「中国」であり、両国に配慮する形となっているからです。
実際、台湾にも「我々は中国人である」と主張する人たちもいます。
僕らは「台湾人を中国人呼ばわるするなんて失礼」と勝手に主張することがありますが、これは「我々は中国人である」と主張する台湾人の意見を踏みにじるものです。
今でこそ少なくなってきましたが、昔はもっと多かったのです。
「中華民国」と「中華人民共和国」の地図
そんなわけで、台湾では中華民国の地図が販売されています。
一部呼称が旧式であったり、中華民国視点での国際関係がみられるので非常に興味深いです。
「中華民国」の地図には、
・北朝鮮がない
・ソウル(首爾)が「漢城」
・モンゴルが中華民国領土
・首都は南京
※上述の通り「中華民国(台湾)はすでに大陸反攻はしない」ことなどから、この地図はいわゆる「レトログッズ」の一種だという考えが一般的です。
台湾で売っているもう一つの地図「最新世界地図」
中華民国全図とは別に「最新世界地図」も販売されていました。
確認すると、確かに新世界、ポスト動員戡乱時期な中身でした。
下部国旗一覧には「中華民国」があるのに、世界地図中には「中華民国」は存在しない。
日本で例える中国からみた台湾
国共内戦に似た関係は過去の日本にもありました。
旧江戸幕府軍と明治新政府軍の日本内戦(戊辰戦争)です。
この戦争は明治新政府軍が旧江戸幕府軍を北へ北へ追い詰め、北海道で終結しました。最後は五稜郭に立てこもった幕府軍の降伏で終結しましたが、もし旧幕府軍がなんとか持ちこたえて北海道を占領していたとしたら、現在の台湾の状況に重なります。
つまり、北海道だけが江戸時代日本で、北海道を除く現在の日本が明治新日本になり得ていたかも、ということです。
似ているだけで背景が違うので容易く比較はできません。
しかしこう考えると、中国人の中華民国の存在を認めない気持ちもわからなくはない気がします。
そして元々は同じ「日本」にも関わらず、「日本」と「旧日本(北海道)」と分割されてしまったと想像すると、台湾人の悲哀もなんとなく想像できます。
その時、旧日本(北海道)の人たちは「我々は日本人ではない、北海道人である」と言うのでしょうか、それとも「我々も日本人である」「我々こそ本当の日本人である」と言うのでしょうか。また、分割状態になったまま70年後にはどう気持ちの変化があるのでしょう?
私たちはこのシミュレーションを台湾で知ることができるのです。興味深いですね。
そこには、もともと北海道に住んでいた日本人、内戦で仕方なく北海道に移ってきた日本人、さらには北海道にはアイヌという先住民族もいるので、やはり簡単にその後どうなるということは想像できないですよね。
台湾に関する僕の個人的な見解
ここからは僕の完全な主観です。
「僕は個人的には台湾が好きだし、中国はあまり好きではありません。」
(実際に中国・上海に2年住んだ上での感想です)
なので、台湾贔屓です。
だから「もう国共内戦から70年も経ってるし、中国も十分豊かになったんだから、台湾の好きなようにさせてあげてもいいじゃないの?」と思います。
(現在は台湾が中国に萎縮して中華民国から台湾国独立の国民投票などをしていない状況。独立したいわって言ったら中国が「そんなんダメだよ」って圧力かけるに決まっているので、台湾の好きなように(例えば独立宣言するか国民投票するとか)できていない状況です。)
もちろんそんな簡単じゃないことはわかっていますが。
ただし、70年間実効支配してきたのは事実なので、このまま中華民国を台湾と置き換えれば「みんな」が最小限しか傷つかず移行できるのではないかなと思っています。
台湾には「みんな」という人は存在しないので、ありえない、傲慢な考えなのかもしれないですけれど。
もちろん僕は専門家でも学者でもなく、ましてや外国人です。
だからできるだけ客観的だと思われる事実を勉強して、知って、見守ることしかできません
口出しはするべきではないし、そんな権利はないですからね。
逆に「台湾人のことを思って台湾の独立を助けよう」とか言っている人は胡散臭いと思ってます。
台湾と日本は切っても切れない歴史があるので、日本人全員は無理だとしても、すくなくとも「台湾大好き!」と言っている皆さんには「大好き!」以上の関心を持って頂けると、同じ台湾大好き日本人としても嬉しいなあと思っています。
→追記しました
「もう国共内戦から70年も経っている」っていうのは正しくありません。国共内戦が「停戦」したのはもっと最近です。
それから、台湾好きには大好き以上の関心を…って部分もちょっと傲慢な気がします。
「牛肉麺おいしい」「小籠包おいしい」「あったかい」、だから大好き、きっとそれだけでもいいと思う。