「台湾の九フンは千と千尋の神隠しの舞台」という言説が広まったワケ
先日、台湾映画の名作「悲情城市」を観ました。
→「悲情城市」を観たので、あらすじと感想と台湾の歴史をまとめました
で、「悲情城市」と言えば、やはり「九份」なわけで、
「九份」と言えば「千と千尋の神隠し」なわけですよ。
「千と千尋の神隠しの舞台は九份である」というのはよく聞く話です。
ところが「千と千尋の神隠し」と「九份」は関係ないと宮崎駿監督が発言されています。
ちょっと調べてみました。
目次
「九份は千と千尋の神隠しの舞台」という言説が広まったワケ
「千と千尋の神隠し」の作品公開は2001年です。
なので、Google検索で期間の範囲を過去に遡って調べてみりゃよくね?
例えば、Google検索で以下のように検索します。
「九份 千と千尋の神隠し before:2001-12-31」
すると、「2001年12月31日以前の九份と千と千尋の神隠し」の記事が検索できます。
実際に検索して観たのがこちら。
検索結果を見ると、一応「九份と千と千尋」な記事は存在するようです。
しかしながらSNSや有料写真素材サイトであり、実際は関係ありません。
これで一年ずつ遡ってみて、真実を探してみよう!
というのが今回の試みです。
また「九份」の他に、「九フン」や「九分」といった表現をしている場合があります。
なので、検索ワードを「九份OR九フンOR九分 千と千尋の神隠し before:2001-12-31」にしてみます。
2001年以前の九份と千と千尋の神隠し
「九份OR九フンOR九分 千と千尋の神隠し before:2001-12-31」で検索します。
これで検索された内容が以下の通り。
公開当年末の情報ですが、やはり、有益な情報はありません。
2002年以前の九份と千と千尋の神隠し
次に、1年後の2002年末の情報
同様に、関連情報がヒットしません。
映画が劇場公開されて丸一年経つので、話題になってもいいようなものですが…
(当時は2002年、スマホも普及していなければLCCも普及していないので、話題になっていたのかもしれないけど、それにしても「九份が舞台」なわりには情報がなさすぎな気がします)
2003年以前の九份と千と千尋の神隠し
さて、もう一年進めてみましょう。
検索結果はこちら。
ついに発見。
一番上に「旅々台北」内「台北日和」の「九分」特集で「千と千尋の神隠しの舞台とも噂される」というワードが入りました。
→旅々台北「台北日和 九份」
中身をのぞいてみます。
なるほど。
「千と千尋の舞台とも噂される」という表現があります。
記事冒頭に赤字で「※台北日和の記事は遡及調査をしていないので、現状と異なることがあります。」という文言がありますw
この検索では他にそれっぽいページは見つかりませんでした。
2004年以前の九份と千と千尋の神隠し
もう一年すすめてみましょう。
先ほどの「旅々台北」の記事が相変わらずトップです。
しかしその次に旅行サイト「4travel」の中の投稿記事に「千と千尋の神隠しを髣髴させる九份」というワードがヒットします。
旅々台北の記事をみてなのか、それとも旅行雑誌などで取り上げられたのか、このころから情報感度が高い(?)方々に見つかり(≒ネタにされ)始めたようです。
2005年以前の九份と千と千尋の神隠し
さらに一年進めて観ましょう。
前年と似た顔ぶれです。
2007年以前の九份と千と千尋の神隠し
さらに一年、…進めても代わり映えなかったので一気に2007年末の内容
新しい記事が出てきました。
この辺になると、ほぼ断定的に「千と千尋の神隠しの舞台である九份」状態になってきます。
2010年以前の九份と千と千尋の神隠し、で阿妹のインタビューを発見
そして2010年末の検索で、決定的に恐ろしい記事を発見。
みなさんご存知、台北ナビに以下のインタビューが。
九份の写真でよく写っている「阿妹茶楼(あめおちゃ)」の「阿妹」さんのインタビュー。
・千と千尋の神隠しの舞台はうちの茶楼の前の階段
・宮崎駿監督がうちで茶をしばいてスケッチしてった
・カオナシもうちの茶楼のインテリアからインスパイア
まじかw
ここまで言い切っちゃうんだw
冒頭の宮崎駿監督のインタビューと全く矛盾しています。
どちらかが嘘をついているか勘違いをしているか、台北ナビがガセネタを載せているかってことに。
詳しく読みたい人はこちらをどうぞ。
→リンク:阿妹茶酒館 (九份)
さらにPIVOBLOGというブログで面白い写真を見つけました。
リンク:【台北・九份】「千と千尋の神隠し」の世界観!雰囲気最高の絶景観光スポット(台湾旅行記#4)
この「阿妹茶楼」さん、やはり「千と千尋の神隠しの湯婆婆の屋敷」と断言しちゃってますw
九份と千と千尋の神隠しを検索して見えてきたもの
ここまで検索してきてなんとなくわかったことがあります。
2003年の旅々台北では「町として」九份は千と千尋の神隠しの舞台であると紹介されます。
その後、噂が噂を呼びいろんな人が九份を訪れ「この町が舞台だ」という雰囲気を感じたようです。
しかしながら実際に九份の人が言っているのは「阿妹茶楼」の「阿妹」さんだけのよう。
阿妹さんとはなにものなのか
で、この阿妹さん、本名を「許乃予」さんというようです。
リンゴ日報で自宅を披露している記事がありました。
豪邸羨ましい。
ご主人は辜思源?
今の三代目の経営者の一人は許俊郁さんのお婿「辜思源」さん
リンク:経済部 創新楽活2013年2月号
許俊郁さんの娘が阿妹でそのご主人が辜思源さん?
辜さんってまた特徴的な苗字の人物がでてきました。
ただ、それ以上はわかり切りませんでした。
「九份は千と千尋の神隠しの舞台」という言説が広まったワケ、まとめ
色々と探している間に「空中庭園と幻の飛行機」というブログに「千と千尋の神隠しの舞台・モデル地は九份というデマについて」という記事を見つけました。
内容は「九份というのはデマ」「ジブリからデマだと回答を得た」というものです。
結局、「事実はこう」なんでしょう。
・商業主義に利用されているだけ
・騙されている人がかわいそう
・メディアは裏取りせずにクソ
至極真っ当だと思います、事実はこうなんでしょう。
(僕もウラとってないけど)
ただ、個人的には事実と真実は別でいいかもとも思っています。
事実を知っても、
「なんだ、千と千尋関係ないんだ」
「でもあの観光地、綺麗だったし楽しかった」
「千と千尋っぽくはあって、いい思い出になった」
「デマとか嘘とかは残念だけど、それ以上の体験をした」
って風に考えることも可能なのではないでしょうか。
事実を知らずに九份に行くことを愚かだと思うか。
事実を知って、憤るか、どうでもいいと思うか。
嘘をつかれたことよりも、もっと大事なモノを得られたと思うか。
どこまで行っても、きっと「個人の考え方次第」なのでしょう。
おまけ
さて「阿妹の人たちが客寄せで嘘ついた。そしたらそれが広まったんじゃね?」という限りなく黒に近いという結論にしてしまいました。
そんななかで、騙されたことを嘆くよりも、もっと大事な真実があるかもねというテーマの映画と漫画を紹介します。
よろしければ秋の夜長にどうぞ!
・「ディア・ドクター」
町中の人が「彼は偽医者だ」と知っていても、その医者は信用・信頼されていたというテーマの西川美和の秀作映画。
ラストシーンの八千草薫の表情がめちゃくちゃ秀逸で鳥肌がぶわっとなります、マジで。
・「ミントな僕ら」
クラスメイトみんなが「彼女は女装しているだけで男だ」と知っていても、そんな事実よりも友情があることが大事だよねというテーマの吉住渉の秀作漫画
数時間でバッと読めちゃいます。
最後に「お前の大切なクラスメイトはお前に重大な嘘をついているんだよ」と言われたあとの回答が素晴らしすぎて、人間世界も捨てたもんじゃないなと思えます、マジで。